魚へんに念と書いて鯰という漢字で表現されるナマズは、日本ではマイナー食材というよりも、一般的には食材としてほとんど認知されていない面がありますが、世界各地では古く紀元前から賞味され、東南アジア各国では今も伝統的な家庭料理の食材として親しまれています。米国では近年、低カロリーでコレステロールも少ないことから、ヘルシーフードともてはやされ、注目を集めています。ナマズの漢字である魚へんに念の字は、念が「粘る」といった意味合いも含んでいることでナマズのぬるぬるした粘り気のイメージから作られた、日本ならではの当て字とも言うべき国字とされてきました。最近の研究で、中国の文献にも「鯰」の漢字が見られるらしく、どうやら中国で、ナマズのぬるぬる感をイメージして文字を作り上げた気配があるようです。中国でもナマズ料理は珍しい部類のようですが、海から遠い内陸部では魚といえば川魚だっただけに、普通に獲れる地域では、家庭料理として違和感なく料理されていたと考えられます。
日本でも冷蔵技術が発達する以前、海から離れたエリアでは基本的に川魚がメインで、明治時代より前は肉食自体限られていたこともあって、獲れればナマズも食材にしていたはずです。水量豊富で勢いよく流れる清流が多く、澄んだ川に住む淡水魚の種類も多い日本では、どちらかと言えばよどんだ水底に居るナマズより、普通の川で獲りやすい魚を好むのは当然と言えます。同じぬるぬる系であれば、精が付くと言われるウナギやドジョウのほうが好まれたことも、食材としてのナマズがマイナーになった一因とも考えられます。
業務用うなぎの仕入れ・卸売・通販は食らぶ市場へ行けばまだ手には入りますが、大人気のウナギが絶滅危惧種となり、将来的に蒲焼に合う食材がピンチとなったことで、近年、ナマズの注目度が上がりつつあります。ナマズは共食いをするということで、長年、養殖が難しいとされてきましたが、ポスト・ウナギの注目株として、一気に養殖技術の向上が図られ、共食いを抑える餌やり方法なども確立、さらには「ウナギ味のナマズ」までもが開発され、一般化に向けて研究が進められています。近い将来、美味しいナマズの蒲焼が普通に賞味できるようになる可能性が高くなってきています。食材というよりも、江戸時代には地震を起こす妖怪的な生き物にまでされ、錦絵として伝わるほどの扱いを受けていたナマズですが、土用丑の日にナマズの蒲焼が親しまれる時代が、すぐそこまで来ているかもしれません。ナマズ自身にとっては、あまり有り難くない展開とも言えます。